ベトナムの山間地に点在する村々では、住民の生活や子育てをサポートする行政サービスが乏しく、子どもの栄養を学ぶ機会もほとんどありません。さらに、お母さんたちは大家族の世話と家事に大忙し。特に朝は時間がなく、多くの子どもが朝ご飯を食べられず、十分な栄養が摂れない要因の1つとなっています。
朝ご飯の必要性や、栄養の知識を伝えても、それをお母さんたちが実践できる環境がなければ、なかなか変化は生まれません。そこで、FIDRはお母さんの負担を減らしながら、子どもの栄養状態を改善すべく、炊飯器で簡単にできる「炊き込みご飯」の普及をはじめました。今では山間地にも電気が通り、8割方の家庭が炊飯器を持っています。しかし、白米を炊くだけで、炊き込みご飯をつくって食べるという習慣はありません。
野菜や鶏肉等を入れた炊き込みご飯を夜に作っておけば、子どもは自分で朝食をとれるようになり、栄養改善が期待できるはずです。そこでFIDRは栄養専門家と知恵を絞り、家庭で実現可能な、栄養満点の炊き込みご飯のレシピを考えました。
レシピができたら、「さっそくお母さんたちに伝えよう!」ということで、活躍するのが「キッチンカー」です。小型トラックの荷台をキッチンに改造し、山間地の村々を巡回しながら、お母さんたちに調理実習を行っていきます。
初めての調理実習は、村の広場で行いました。カラフルなキッチンカーにみんな目を奪われ、「この車なに?」「何か楽しそう」と自然と人が集まってきます。まずはFIDRスタッフがデモンストレーションをした後、試食をしてもらい、その後はお母さんたちに実際に作り方を体験してもらいました。今回紹介したのは、「野菜たっぷり炊き込みご飯」と「鶏めし風炊き込みご飯」の2種類です。
日本では一般的な炊き込みご飯ですが、ベトナムではかなり珍しいもの。初めてのレシピと調理法に、お母さんたちは興味津々で、子どもたちも大喜びで食べていました。
そして、調理実習に参加したお母さんたちからは、嬉しそうな声が聞かれました。
「こんな調理法は初めてでした!ご飯を炊く時に、一緒に野菜やお肉を入れるだけで、あっという間にできるんですね。これなら家でもできそうです」
「今回作った炊き込みご飯に、お湯を注ぐたけでお粥になるので、小さな子どもにも食べさせられます。作り方はシンプルなのに、美味しくて良いですね!」
笑顔と栄養を届けるキッチンカーの旅は、まだ始まったばかり。山間地のお母さんと子どもたちのため、これからも走り続けます!
FIDRが中部山岳地域のコントゥム省で進めている、トイレ、洗濯、水浴びができる手作り施設「マザーズ・スペース」の設置支援。
この地域では、今も多くの家庭にトイレがなく、洗濯や水浴びをするには川や井戸まで行かなければなりません。衛生環境の悪さから、特に免疫力の弱い子どもたちは病気にかかりやすかったところ、「マザーズ・スペースがその改善につながる」と、設置に意欲的に取り組む世帯がどんどん増えてきたのです。その数は、当プロジェクトの活動が本格開始した昨年度から現在までに、約330世帯にのぼります。
マザーズ・スペースを設置した家庭のお母さんから、次のような喜びの声が上がっています。
リエウさん
「マザーズ・スペースの内部は私がアイディアを出しました。トイレットペーパーや歯磨き粉、洗剤などを置く棚を作ったり、雨よけを作ったりするなど、使いやすいように工夫しました。洗い場ができたので子どものおもちゃやサンダルもきれいに洗うようになり、身の回りを清潔に保てるようになり、とても快適な環境になりました。」
タムさん
「私は自分の経験を共有したり、みんなと一緒に家事や育児のことを話し合うようになりました。昔からとても恥ずかしがり屋で、人前で話すことができませんでしたが、マザーズ・スペースの設置をきっかけに、それが変わったんです。またマザーズ・スペースを通してご近所さんのお役に立てたことが、とても嬉しいです。これまでは、この村にはトイレがなくて、子どもたちが家の周りや道端などあちこちで排泄していました。マザーズ・スペースを設置する家庭が増えたことで、家庭内だけでなく地域全体がきれいになったと感じます。」
プロジェクト地のコントゥム省でも新型コロナウイルスの陽性者が増えてきていますが、各世帯でできる活動を中心に進めています。その中でも現地で勢いよく進んでいるのは「マザーズ・スペース」と「家庭菜園」の設置です。
コントゥム省の山岳地ではキリスト教の人も多く、「12月のクリスマス前にはマザーズ・スペースを設置しよう!」と多くの世帯が家族総出で毎日作業に取り組んでいました。クリスマスに間に合わなかった世帯も「ベトナムの旧正月までには!」と意気込み、3月末までに230戸にマザーズ・スペースが設置されました。設置した家族からは「今までは川に行ったり、村の共同水場で慌ただしく水浴びをしていたけど、これからは自分のスペースで子どもも一緒に水浴びができます」「今までは近所のトイレを借りていて気がねしていたけど、これからは綺麗なトイレが自宅で使えて安心です」など喜びの声が上がっています。
さらに、人々の笑顔が絶えない活動が、家庭菜園づくりです。プロジェクト地の一部の家庭ではすでに作っていましたが、育てているのは3 〜4種類のみ。そのほとんどがマスタードやリーフレタス等の野菜で、気温が下がる数か月のみ栽培していました。そこでFIDRは、家庭での消費用に栄養価が高く、接ぎ木や挿し木等で容易に増やすことができる作物を紹介しました。その代表格が「さつまいも」です。栽培が容易で保存もきき、食物繊維も豊富。お弁当や子どものおやつにも最適なため、栽培農家が増えてきました。住民の健康のため、少しでも長い期間、多様な野菜が栽培できるよう家庭菜園づくりを進めていきます。
2月23日、FIDRベトナム事務所はJICA研修の一環として、アフリカの英語圏8か国の政府行政官を対象に、「栄養に配慮した農業および生活改善」について講義を行いました。
研修の前半では、大槻所長とホア職員から、FIDRが2018年までベトナムのコントゥム省で実施した子どもの栄養改善事業の取り組みを紹介しました。栄養に特化した活動に加え、日々の生活をよりよくするために小さな工夫や改善を積みあげていく「生活改善アプローチ」を導入したことが子ども栄養改善の大きな原動力となったこと、そしてその取り組みのきっかけとなった「マザーズ・スペース」を中心に説明しました。
トイレ、洗濯、水浴びができる手作り施設「マザーズ・スペース」は、衛生改善において大きな成果を上げたのみならず、女性の立場が弱くなりがちな農村部で、お母さんが一人の時間を安心して過ごせる場所としても機能しました。研修参加国の中で同じ課題を抱える国もあり、共感を呼びました。
質疑応答では、事業の進め方や改善方法、活動を実施する上で持つべき視点等、参加者から非常に多くの質問が寄せられました。特に、マザーズ・スペースや父親も一緒に栄養について理解を深めてもらう活動は、早速それぞれの国で実践できそうだと、高い評価を頂きました。
昨年10月、世界の中でも特に厳しいと言われるベトナムのロックダウンがようやく解除されました。第4波は3か月以上続き、FIDRスタッフも活動地に行けない状況が続いていました。そんな中、プロジェクト地であるコントゥム省の行政官や地域の人々が、待ちに待った活動を開始しました。
第一弾は「マザーズ・スペース」の設置です。これは2012年より6年にわたる先行プロジェクトでFIDRがモデル化したもので、トイレ、水浴び場、洗濯場など多目的に利用できる各家庭の手作り衛生施設です。これは、世界銀行や大手国際NGOも取り入れ始めている活動にもなっています。
今年度から同省の4郡で設置をすすめ、衛生改善をはかる計画です。「いつ始めるんだ?」「早く進めよう!」と何度も地域の人々から熱いコールが続き、お尻を叩かれるように、スタッフは現地に向かいました。現地では、まだ準備段階のミーティングでも、すぐに作業を始める住民がでてきたり、作業が遅れている家族を手伝ったりと、ロックダウン後の反動のように人々が活発に動き出しています。
本当に必要とされている活動は、住民の手でどんどん進められていくのだとスタッフ一同実感しています。さあ、今年はいくつのマザーズ・スペースが生まれるのでしょうか?今から楽しみです!
「ベトナム中部生活改善と子どもの栄養改善プロジェクト」の本格的な開始に向けて、FIDRスタッフは先行事業でも対象地であったベトナム中部高原地域のコントゥム省ダックトー郡を訪問し、プロジェクト完了後のモニタリングを実施しました。
その結果、先行事業で実施した活動の中でも高い効果をあげた、トイレ、水浴び場、洗濯場など多目的に利用できる各家庭の手作り衛生施設「マザーズ・スペース」は、2017年度に事業を完了してからも、住民自身がメンテナンスを行っているだけではなく、中には水タンクやパイプなどを新たに取り付け、改修した家庭もあることがわかりました。マザーズ・スペースを導入した家庭が率先してその使いやすさを近隣住民に紹介したことによって、実際に自分たちで導入した家庭もありました。
また、世界銀行がマザーズ・スペースの建設を参考にしたという例もありました。マザーズ・スペースは、建設期間中のほとんどの過程において設置世帯や地域が参加するようになっており、特に地上部分は住民の創意工夫によって建設され、地下部分の建設資材が支援されます。世界銀行によるトイレ建設支援がコントゥム省で実施された際、マザーズ・スペースを高く評価している現地行政がこの手法を紹介し、建物を含むすべての建設費を支援していたこれまでのトイレ建設と異なり、地上部分の建設を設置世帯に任せたため、より多くの世帯に設置が可能となったということです。
先行事業で導入されたマザーズ・スペースは現在も大切に使われています
ダックトー郡では、住民の意欲も高く、先行事業で住民リーダーとして活躍した女性からは「プロジェクトが開始したら、ぜひ協力したいです。」との声が聞かれました。今年8月の本格始動に向けて、引き続き準備を進めてまいります。
2018年度で終了したコントゥム省内2郡での子どもの栄養改善プロジェクトは、行政から高く評価され、省内全域に広げて欲しいとの要請がありました。コントゥム省では、先行プロジェクトの対象2郡以外では乳幼児の栄養状態の改善が進んでおらず、5歳未満児の栄養不良率は40%と国内で最も高くなっています。
2019年度に、その原因を調査し、地域住民の保健衛生の知識や行動だけでなく、農業の生産力や収入の低さも課題であることがわかりました。そのため、先行プロジェクトで推進した乳幼児の補完食や「マザーズスペース」(トイレ・シャワー・洗濯の施設)設置などの活動に加えて、農業技術やコミュニティーの協力体制を高める活動を行うことで、地域全体の生活改善を図り、その効果として子どもの栄養・健康が持続的に増進するというアプローチを取ることにしました。現在活動実施に向けて、準備を進めています。